灰皿がいっぱいになるまで時計とにらめっこしたあの子は、1ダース分の魔法を使い切って疲れ切って恨めしそうにお日様を見て呟く。
血が出るまで腰を動かしたあの子は飲もうとして喉に引っかかった精液の匂いを我慢して、一ヶ月がかりでベッドインした男にささやく。
酒を飲み始めて三ヶ月目の男の子、初めてヤケ酒なんて飲んだもんだから、友だ連中におもしろがられて、吐瀉物にまみれて皆に祝われる。
自分の彼女が他の男のベッドから電話を掛けてるなんて夢にも思わない純朴青年は、いつもみたいに幸せたっぷりで甘く柔らかにささやく。
アル中気味の夫の世話と馬鹿な女に入れ込んでいる息子の事で胃を痛めている母親は、弁当を作りながら大声で息子に呼びかける。
自分が殺した猫の墓を見舞いにくる好青年風の学生は感傷的にも雪だるまのおもちゃなんて持ってきて、煙草を吸いながらふっと呟く。
一人娘が援助交際してるなんて知らない父親はいつまでも子ども扱いでおもちゃ売り場で奮発したプレゼントを持って娘にメールを送る。
大好きな男の子にふ家出掲示板られた女の子は、二週間悩んでから手紙を書いて、自分の気持ちをその言葉に託してひたすら祈った。
没個性的十代カップルは、それでも世間の慣行にならって手なんかつないで、きっと一番ロマンティックな言い方で言う。
DV被害を受けていて、でもそんな自分に浸っている三十二歳の主婦は、手作りのケーキをひっくり返されて泣きながら夫に言う。
いじめが半年以上続いて、親の金庫の番号まで暗記してしまった少年は、自分へのプレゼント代のために金庫を開けて、ふと呟く。
鉄格子がついていて、面会もできない病棟に住むあの子は、看護婦さんや、仲の良い他のベッドの患者さん達と小さなパーティ。とてもあたたかく、優しくみんなで言い合う。
「メリークリスマス」
あの子は両手いっぱいのケロイドで男を抱きしめる。あの子の誕生日から三週間。ちゃんと二つのプレゼントを貰って、男とあの子は婚約者。
どこにも行かないって口では言い合っても、結局それは意味をなさないなんて知ってるから。
一緒にいる時間セフレが、それだけが全てだってみんな知ってるから。
だから、その日、その時、その言葉をかけられること。
メリークリスマス。
例えば梅雨入りの6月でも。あの子を殺した4月でも。ネジのはずれた2月でも。楓の綺麗な10月でも。
何か大切なことがあったら、たとえばそう言えばいい。
メリークリスマス。たとえ、今日が、いつだって、貴方がだれだって、何だって。この言葉を発して、受け取るヒト(モノ)がいる。それだけが世の中の全て。誰もいないなら、それは世界中に向けられたものだから尚素晴らしい。
6月のメリークリスマス。
全てがぶっ壊れたと思っていたあの頃へ。
全てがぶっ壊れていく過程に自ら飛び込んで行ったあの頃へ。
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